© 堀江 菜穂子 詩集
さくらのこえ

さくらのこえ

さくらのこえ / A5 版 / 57 頁 / 発行

はたちのひ わたしはいきていた

うまれたときにおもいしょうがいをおってしまい
わたしは はたちまでいきられないだろうといわれていた

そんなわたしをりょうしんは
ふびんさともうしわけなさをもって たくさんのあいじょうをそそいでくれた
このいえでゆいいつのひとりむすめは かぞくみんなからあいされてせいちょうした

おおきくなるにつれ じぶんが人とはちがうことにきがつきはじめた
ほかのこどもたちがあたりまえにできていることが
じぶんにはなにひとつできなかったからだ
わたしはじぶんとかぞくをうらんだ
どうしてじぶんばかりがこんなからだなのだろう そればかりおもっていた
わたしの心はそのことでいっぱいになり
そしてちゅうがくせいのころばらばらにくだけた
わたしの心になん人ものわたしがうまれた
わたしの人かくはわたしだけのものでなくなってしまった
わたしであってわたしでない とてもこんらんするまいにちがつづいた

そんなころに じをかくことをおぼえた
わたしにとってじがかけることは いままでできなかったことの
なににもまさるよろこびだった
じをかけるようになり じぶんでない人かくが じぶんとしてひょうめんかしてきた
それはもともとのわたしにとってはものすごいきょうふだった
りょうしんはべつじんかくのわたしがかいたことを
わたしのことばとしてうけとめていた
それはわたしにとってりょうしんがうらぎったこととおなじだった
どうにかしていまのわたしをわかってほしかったが
どうにもできないひがつづいた

あるひ しょうがいしゃの人のかいたしがうたになり
人々にひろまっているニュースをみみにする

これだとおもった

じぶんのしにしてはなせば べつのじんかくにもさとられなくてすむ
そうおもったそのひから じぶんのしにはじぶんのなまえでしょめいをし
べつのじんかくにはべつのなまえでしょめいをした

するとわたしのしは じんかくによってはっきりとちがいがあらわれた
こうげきてきなじんかく こどものじんかく そしてわたしじしんのじんかく
どれもわたしであってわたしではなかった

しをかくにつれ はりさけそうな心がかいほうされていった
なんぺんもかきつづってからっぽになり またすぐいっぱいになった
それがくりかえされ わたしはべつじんかくとのつきあいがわかってきた

しをかくとあいてのこともみえてきた
そしてあるひ そのたのじんかくはとざされた
それはまったくのじぶんじしんのしょうりだった
わたしはいまひとりのじんかくとしていきている
それはたくさんのしをつづってきて 心をじぶんで はあくできたからだ

いま はたちのひをむかえることができたのは たくさんのあいじょうに
つつんでくれたりょうしんのおかげであるのはもちろんのこと
たくさんのしが わたしじしんをいかしてくれたということにほかならない

しは わたしがいまのわたしになるためのたいせつなとおりみちだった
しをかくことはわたしじしんを
かいほうするこういだった
わたしのしをよむすべての人たちに
わたしがたちなおったように
あきらめずにいきてもらいたい

はたちのひに ~あとがきにかえて~さくらのこえ」より
©
written by "Naoko Horie"

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